スパイダーウェブオブシディアンとは?——蜘蛛の巣模様を持つメキシコ産黒曜石を解説

深い黒の中に走る、グレー〜オリーブグリーンの網目模様。まるで蜘蛛の巣のようなこのパターンは、どうやって生まれるのか。スパイダーウェブオブシディアンの地質学的な成り立ちを、海外の文献や鉱物学者の議論をもとに解説します。

1. オブシディアンとはどんな石?

オブシディアン(黒曜石)は、火山ガラスの一種です。岩石ですが、その正体は天然ガラスで、鉱物のような結晶構造を持たない非晶質(アモルファス)の物質です。英語では「volcanic glass(火山ガラス)」と呼ばれます。

種類  火山ガラス(非晶質火成岩)
化学組成 SiO₂(珪素)を主体とする流紋岩質〜デイサイト質のガラス
硬度 5〜5.5(モース硬度)
光沢 ガラス光沢(磨くと非常に鮮やかな光沢が出る)
破断面 コンコイダル(貝殻状)破断。非常に鋭い断面が生まれる
黒が基本。産地・成分によって様々なバリエーションがある
産状 珪素に富む溶岩流中に産出

名前の由来

「オブシディアン」の名前は、紀元77年にプリニウス(ローマの博物学者)が著書「博物誌(Naturalis Historia)」の中で、エチオピアでこの石を発見したローマ人「オブシウス(Obsidius)」の名前にちなんで記載したことに由来します。

参考:triceratory.com(Pliny the Elder, Naturalis Historia, 77AD)/ Rock & Gem Magazine(rockngem.com)

3. 産地——ハリスコ州と火山の歴史

メキシコ・ハリスコ州産のオブシディアン(黒曜石)は、約9万5千年前の大規模な火山噴火によって形成されました。この噴火が作り出した広大な溶岩流の中に、レインボーオブシディアン・シルバーシーン・スノーフレーク・スパイダーウェブ・ピュアブラック・ゴールドシーンなど様々な種類のオブシディアンが含まれています。

ラ・レボルトサ鉱山(La Revoltosa Mine)

スパイダーウェブオブシディアンは、ハリスコ州マグダレナ市サン・アンドレス、ラ・レボルトサ鉱山(La Revoltosa Mine)と同じエリアで採掘されています。この鉱山は世界最高品質のレインボーオブシディアンの産地としてMindat.orgにも記録されている鉱山で、標高約2,000mの松林に位置しています。

現在流通している青みがかったスパイダーウェブオブシディアンは、この地域のものとして紹介されることが多いです。採掘は露天掘りで行われ、数百kg単位の大きな塊として掘り出されます。

参考:Mindat.org(loc-245296)/ Rock & Gem Magazine / themineralmaven.com

4. 蜘蛛の巣模様はどうやってできるのか

スパイダーウェブ模様の形成プロセスは以下のように説明されています。

  1. 溶岩が急速に冷却してガラス化する
    溶岩が非常に速く冷える(急冷)ことで、結晶が成長する時間がなくなり、ガラス質のオブシディアンが形成されます。この急冷が、オブシディアンが鉱物ではなくガラスである理由です
  2. 冷却時の内部応力で亀裂が生じる
    ガラスが固まる過程で内部に応力(ひずみ)が蓄積されます。この内部応力によって小さな亀裂や割れ目が生じます。これがスパイダーウェブ模様の「骨格」になります
  3. 亀裂にミネラルを含む流体が入り込む
    スパイダーウェブオブシディアンの特徴的な線模様は、冷却時に生じた小さな亀裂にミネラルを含む水が浸透することで形成されます。この流体が固まってグレー〜緑がかった白い模様になります

冷却によって細かな亀裂が生じたあと、そこに別の成分が入り込んだ、あるいは組成の異なるガラスが入り込んだなど、いくつかの説があります。

5. 模様の正体——実はまだ議論中

「亀裂に何が入り込んでいるのか」については、実は専門家の間でもまだ議論が続いています。これはこの石について正直に伝えるべき重要な点です。

 Mindat.orgフォーラムでの専門家の議論(2023年)
Mindat.orgの専門家フォーラムでは、スパイダーウェブオブシディアンの模様の正体について活発な議論があります。

一部の情報源では「鉄酸化物やマグネシウム酸化物が亀裂を埋めている」と説明していますが、Mindatの鉱物学者は「亀裂を埋めているのは鉱物ではなく、色だけが違う別のガラス(オブシディアン自体)の可能性が高い」と指摘しています。テクスチャーや構造に肉眼での違いはなく、色の差だけが観察されるためです。

正確な同定には電子顕微鏡(SEM)や化学分析が必要で、現時点では「ミネラルを含む流体が固まったもの、もしくは組成が異なるガラスが亀裂を埋めたもの」というのが最も正確な表現です。
参考:Mindat.org フォーラム "Identity Help: Spiderweb Obsidian"(2023年)

 

    6. 同じ産地から採れる他の種類のオブシディアン

    ハリスコ州のオブシディアンは世界で最もカラフルで美しい火山ガラスのひとつです。スパイダーウェブ以外にも同じエリアから様々なバリエーションが産出されます。

    レインボーオブシディアン

    表面に虹色の遊色効果が出る。内部のナノサイズの気泡層による光の干渉が原因。ラ・レボルトサ鉱山の代表的な産物

    シルバーシーンオブシディアン

    黒の中に銀色の光沢帯が見える。気泡や内包物による光の反射が原因

    スノーフレークオブシディアン

    黒地に白い雪の結晶状のクリストバライト(石英の一種)が含まれる

    ゴールドシーンオブシディアン

    黒の中に金色の光沢帯が見える。赤茶色のシーンはヘマタイトの薄膜が原因とされる


    まとめ

    スパイダーウェブオブシディアンは、メキシコ産オブシディアンの中でも特徴的な網目模様を持つバリエーションです。

    模様は冷却時に生じた亀裂や内部構造が関係していると考えられていますが、その詳しい成り立ちは現在も研究・議論が続いています。

    分かっていることと、まだ分かっていないことの両方がある。

    それも、この石の面白さの一つです。

     




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